議会に運び込まれた2つの箱
2023年9月12日、メキシコの下院で UFO(UAP)に関する公聴会が開かれ、その席にガラスケースに入った2体の小さなミイラが運び込まれました。
ナスカ近郊のチャウチージャ墓地にある本物のミイラ。乾燥した土地なので、このように残る。「議会に運ばれたミイラは、こうした本物の骨を組み合わせたものではないか」というのが人類学者の指摘。Wikimedia Commons / sumalavefotograf / CC BY-SA 4.0
ミイラを議会に持ち込んだ UFO 研究家、ハイメ・マウサン氏。Wikimedia Commons / Dimaussan / CC BY-SA 4.0
持ち込んだのは、メキシコの UFO 研究家でジャーナリストのハイメ・マウサン氏。彼は宣誓のうえで「これは地球外の生命体で、ペルーのナスカ近くで発見された。約1,000年前のものだ」と説明しました。体長は60cmほど、頭が大きく、指が3本。この映像がその日のうちに世界中に流れ、日本でもテレビが取り上げました。
7月にアメリカの議会で「非人間の遺体」の証言があったばかりです。そこに実物が出てきた、という受け止め方をした人も多かったはずです。
主張の中身
マウサン氏側が示した「根拠」は次のようなものでした。

- メキシコ国立自治大学で炭素年代測定を行い、約1,000年前と出た
- DNA の3割が「地球上の既知の生物と一致しない」
- X 線で体内を見ると、片方の個体には卵のようなものがあった
- 骨は金属(オスミウム)を含むインプラントを持っている
科学者の反応
反応は早く、厳しいものでした。
- 年代測定をしたとされる大学は、「測定は行ったが、試料の由来や真正性については一切関知しない」と声明を出しました
- ペルーの文化省は、この「ミイラ」がペルーから違法に持ち出された遺物である可能性を指摘し、以前から捜査していると発表
- 人類学者や法医学者は、「複数の動物や人骨を組み合わせて作られた像」という見方を示しました。指が3本なのは、指の骨を抜いて並べ替えたと考えれば説明がつく、と
決定的なのは、同じ「ナスカのミイラ」は2017年にも同じ人物によって発表されていたことです。当時も「宇宙人」として話題になり、ペルーの学会が「人形である」と結論づけていました。今回はその「続編」だったわけです。
それでも話題になる理由
科学的な決着はほぼついているのに、なぜこれほど広まったのか。
- 議会という場所。テレビ局の番組ではなく、国の議会に持ち込まれたことで「公式」の色が付いた
- 見た目。ガラスケースの中の小さな体は、誰が見ても「映画で見た宇宙人」そのものでした
- 7月のアメリカの公聴会からの流れ。「アメリカで証言、メキシコで実物」と並べれば、話がつながって見える
ちなみにメキシコの公聴会には、アメリカの公聴会で証言した元海軍パイロットのグレイブス氏も呼ばれていました。彼は後に「ミイラの件は、真面目な UAP の議論にとって大きな後退だった」と不快感を示しています。UFO を真面目に扱う側からすると、この騒動はむしろ迷惑だったようです。
このブログの見方
「宇宙人のミイラ」は、UFO 界隈では古典的なジャンルです。ロズウェルの解剖フィルム(後に制作者が作り物と認めた)、南米各地の「エイリアンの頭蓋骨」(多くは人為的な頭蓋変形の風習によるもの)。今回もその系譜で、たぶん数年後にはまた別の形で出てきます。
一方で、ペルーの文化財が「宇宙人」として売り買いされている、という現実の問題は残ります。本物の遺物(人骨を含む)が見世物にされているとすれば、それは都市伝説とは別の話です。
おわりに
2023年は、UFO が「議会の議題」になった年として記録されると思います。アメリカでは宣誓証言、メキシコではミイラ。真面目な話と見世物が同じ年に並んだせいで、線引きがいっそう難しくなりました。
このブログとしては、両方を並べて眺めるのが一番面白い、という立場です。










