一夜で消えた町
2023年8月8日、ハワイ・マウイ島西部の町ラハイナが山火事に飲み込まれました。ハリケーンが通過中で風速20メートルを超える突風が吹き、火は数時間で町の中心部を焼き尽くしました。亡くなった人は100人近く。アメリカの山火事としては100年ぶりの規模の犠牲でした。
2023年8月15日、山火事の後のラハイナの街。Wikimedia Commons / State Farm / CC BY 2.0
そして、被害の写真が出回るのと同時に、ある言葉が一気に広まりました。DEW=指向性エネルギー兵器。「宇宙から、あるいは航空機からレーザーで町を焼いた」という説です。
何が「証拠」とされたのか
この説を支えた写真や映像を順に見ていきます。

燃え残った赤い屋根の家と、「青いものは燃えない」
焼け野原の中に、一軒だけ赤い屋根の家が無傷で残っている写真が、この説の看板になりました。「狙い撃ちにされなかった家がある」というわけです。並行して、「青い傘や青い車だけが燃えていない」という写真も出回り、「青はレーザーを反射する色だから狙われない」と言われました。
赤い屋根の家は実在し、持ち主が取材に答えています。100年前の木造家屋を改修する際に、屋根を金属製に葺き替え、家の周りの植物を石に置き換えていた。つまり火の粉が燃え移る材料を減らしていた家でした。屋根の色は関係なく、隣の家はトタン屋根でしたが木製のデッキから燃えています。「青いもの」の方は、焼け跡の中で目立つ色を拾って並べただけで、青い車が焼けた写真も同じ数だけあります。
焼けた車と、燃えていない木
「車は溶けているのに、隣の木は燃えていない。自然の火事ではありえない」という写真です。
車は金属とガソリンとタイヤの塊で、火事の中では最もよく燃えます。一方、生きている木は水分を含んでいて、突風で火が横に走る場合、幹の外側だけ焦げて葉が残ることは珍しくありません。カリフォルニアの山火事でも同じ光景は毎年撮られています。
「空から光の柱が降りている」映像
ネットで流れた「マウイの上空から光が落ちる」映像は、複数が2018年以前のものや、別の場所で撮影された変電所の爆発、火山の映像でした。
「金持ちがラハイナの土地を欲しがっていた」
これは陰謀論の「動機」の部分です。ラハイナは観光地で土地の値段が高く、火事の直後から不動産業者が住民に買い取りの連絡をしたことは報じられています。「だから焼いた」は飛躍ですが、「災害後に土地が動く」こと自体は現実の問題として議論されました。
なぜこの説が「刺さった」のか
理由は2つあると思います。
- 火事の速さが尋常ではなかった。数時間で町が消えるのは、映像で見ても信じがたい。「何か特別なことが起きた」と感じるのは自然です
- DEW は実在する。指向性エネルギー兵器そのものは、米軍がドローン撃墜用のレーザーとして開発・配備を進めているものです。HAARP のときと同じで、「実在する軍の技術」は否定しても消えません
ただ、宇宙から町を焼けるレーザーは存在しませんし、存在したとしても、ハリケーンの突風と乾いた草地と老朽化した送電線という、もっと平凡で確実な原因が目の前にありました。実際、火元は倒れた送電線からの出火だとみられ、電力会社を相手にした訴訟が始まっています。
このブログの立場
トルコの地震の記事でも書いた通り、現実の災害を「誰かがやった」に置き換えるのは、被害に遭った人にとっては二重の傷になります。噂は噂として面白がるにしても、亡くなった方がいる出来事では、線を引いておきたいと思います。
おわりに
「青い屋根」の家の持ち主は、取材で「なぜうちだけ残ったのか、自分たちも分からない」と語り、「奇跡と言われるのは複雑だ」とも言っていました。焼け野原の中の一軒は、陰謀の証拠ではなく、たまたま準備をしていた家の話でした。
指向性エネルギー兵器の話は、次の大きな火事でもきっと出てきます。そのとき、青い屋根の家のことを思い出してもらえれば十分です。









