酸素はあと何時間か
2023年6月18日、北大西洋の海底3,800mに沈むタイタニック号を見に行くツアーの潜水艇**「タイタン」**が、潜航開始から2時間弱で連絡を絶ちました。乗っていたのは運営会社の CEO、イギリスの冒険家、パキスタンの実業家父子、フランスの潜水の専門家の5人。
潜水艇タイタンの想像図(3D モデルによる再現)。Wikimedia Commons / Madelgarius / CC BY-SA 4.0
ニュースは「艇内の酸素はあと96時間」と伝え、世界中がカウントダウンを見守りました。海面を叩くような音が検知されたという報道が流れ、希望が残されたまま、6月22日、米沿岸警備隊が**残骸の発見と「壊滅的な圧壊」**を発表しました。5人は潜航当日のうちに、ほぼ一瞬で亡くなっていたとみられています。
なぜ噂が群がったのか
事故の性質上、話題になる要素が多すぎました。
- 行き先がタイタニックという、それ自体が都市伝説の塊のような場所
- 乗客が億万長者で、料金は1人25万ドル(当時のレートで3,500万円ほど)
- 潜水艇の操縦に市販のゲームコントローラーを使っていたことが以前の取材映像で分かっていた
- 「酸素の残り時間」という、テレビ向きすぎるカウントダウン
これだけ揃うと、噂が出ない方がおかしい状況でした。

広まった噂を順に
「タイタニックの呪い」
タイタニック号の周りには昔から「呪われた船」の話があります。エジプトのミイラを積んでいた、船体番号を鏡に映すと「NO POPE(教皇なし)」と読める、など。今回は「タイタニックを見世物にした罰」という形で復活しました。
タイタニック号の残骸へのツアー自体は1990年代から行われていて、今回が初めてではありません。呪いというより、深海の圧力と設計の問題だった、というのが調査の方向性です。
「ゲームコントローラーで動かしていた」
これは本当です。CEO が以前の取材で、市販のコントローラー(一部改造)を操縦に使っていると自慢げに見せていました。ただ、潜水艇の操縦に汎用コントローラーを使うこと自体は珍しくなく、軍の潜水艦でも使われている例があります。問題はコントローラーではなく、船体の炭素繊維の設計と、認証を受けていなかったことの方でした。
操縦に使われていたとされる市販のコントローラー(ロジクール F710)。Wikimedia Commons / FreeMediaKid! / CC BY 4.0
「富豪だから救助が特別だった」
同じ週に地中海で難民船が沈み、数百人が亡くなっていました。それと比べて「5人の富豪には各国の軍が出動した」という批判は、噂というより正当な指摘として広まりました。事実として、アメリカ、カナダ、フランスの船と航空機が投入されています。
「最初から死んでいたのに、番組のために引っ張った」
米海軍が、潜航当日に圧壊の音に近い音響を検知していたことを、残骸発見後に認めました。ここから「政府は最初から知っていた」「視聴率のためにカウントダウンを続けた」という説が出ました。
海軍の説明は「決定的ではない音だったので、捜索は続けた」というものです。ただ、この情報が出るタイミングの悪さは、噂が立つのに十分でした。
「タイタニックの秘密を見せないために」
このブログ向きの説です。「タイタニック号の沈没には隠された理由(保険金詐欺、姉妹船とのすり替え、連邦準備制度に反対した富豪の排除)があり、真相に近づく者は消される」という、100年前からある陰謀論の派生です。
タイタニック号に乗っていた富豪たちが連邦準備制度に反対していたという説は、以前ロスチャイルドの記事で触れた「銀行家の陰謀」の一部として今も語られています。今回の事故がそこに接続されたのは、ある意味で必然でした。
おわりに
タイタンの事故は、都市伝説の作られ方を4日間で見せてくれました。舞台、登場人物、小道具、そしてカウントダウン。全部が揃った出来事は、事実が出た後も噂の方が長く残ります。
5人の方の冥福を祈りつつ、調査の結果が出たら、この記事に追記するつもりです。









